現在、私は北海道大学理学院数学専攻に所属している。しかし、今年の院試で北大を受験し直し、北海道大学理学院自然史科学専攻科学コミュニケーション講座に合格した。転専攻の理由などを以下にまとめておく。
転専攻した理由
私は、4月に数学専攻に入学した。研究室は力学系や複雑系を研究している研究室だった。そこで、私はニューラルダイナミクスの研究がしたいと考えていた。
ニューラルダイナミクスに興味を持ったのは、津田一郎さんの本がきっかけである。もともと私は、人間の意識の創発に興味があった。実際の物質として存在する脳は、言うまでもなく運動方程式やMaxwell方程式などの基礎的な物理学の理論に従っているはずだ。それにもかかわらず、脳は意識という不思議なものを創発させている。なぜ、このような現象が発生するかを理解したいと考えている。
この問題について私は、これまで勉強してきた物理学、数学を駆使して取り組みたいと考えた。その中で候補として上がったのが津田一郎さんの研究対象である力学系やカオスである。力学系とは、一定の規則にしたがって時間発展するシステムについて数学的に記述することを目的に発展した数学の一分野である。
もともと私は、津田一郎さんのように力学系、カオス理論から脳の意識について研究したいと考えていた。しかし、5月に入り、研究自体があまり手につかないということが発生した。もともと自分の中では興味のある分野だと考えていただけに非常にショックだった。
最終的に再考した結果、「物理や数学を勉強すること自体は興味があるが、自分でそれらの理論をより研究したいというわけではない」という結果にいきついた。正直、自分でも結論づけるのがきついものではあったが、ここで完全に諦めて別の道に進もうと思った。
科学コミュニケーション講座にした理由
結果的には、数学専攻から科学コミュニケーション講座に転専攻することに決定した。なぜ科学コミュニケーションへの道に決めたのかというと、私自身、文章を書いたり読んだりすることが好きなので、それと科学とをつなげられるような気がしたからだ。
そもそも私が自然科学を専攻したきっかけは、数々の科学に関する本を読んできたからである。例えば、スティーブン・ホーキングや佐藤勝彦らが書いた文章によって宇宙論に興味をもった。また、元素図鑑をみて数々のきれいな元素を見ているとても楽しい気分になった。このような数々の本との出会いが現在の私を形成しており、いまなお大きな影響を与えている。
また、私は現在、ライターとしてさまざまなジャンルの記事を執筆している。例えば、統計学や電気に関する記事、最近ではAIやデータサイエンスに関連する記事の執筆依頼を受けることが多い。一つひとつ質の高い記事を執筆するのは大変だが、やりがいがあり仕事をしていてとても楽しい。さらに、自分で勉強したことを記事にまとめることでより深い理解の手助けにもなっている。
このように、読む、書くという行為は私の生活の一部となっているが、そこに科学コミュニケーションの知見を追加することで、どのように表現すればより科学の概念を伝えられるのか、どのような科学の文章が好まれているのかということを理解できるのではないかと考えた。
さらに、私は大学院卒業後、ライターとして働いたり、出版社に就職して理系学術書の編集に携わりたいと考えている。このような卒業後の活動において、科学コミュニケーションの技術が活用できるのではないかと考えた。
転専攻先でやる予定の研究
科学コミュニケーション講座でやる予定の研究は、「これまで物理学者の書いてきた文章からサイエンスライティングにつかえそうな秘訣、コツを見つける」というものだ。
これまで、物理学者は随筆やエッセイというものを書く文化があった。例えば、夏目漱石の弟子としても有名な寺田寅彦は自分の研究を進めるかたわらで、俳句や随筆を執筆してきた。また、寺田寅彦の弟子にあたる中谷宇吉郎も有名な『雪』を筆頭に数々の文章を残している。また、1950年代から7名の物理学者によって構成された「ロゲルギスト」によって、『物理の散歩道』という物理学のエッセイが書かれた。現在でも、2015年から物理学者が中心となって寄稿している『窮理』が継続的に出版されている。また、日本だけでなく、アメリカでもリチャード・ファインマンによる『ご冗談でしょう、ファインマンさん』などは広く知れ渡っている。
このように、物理学者はこれまで数々の随筆、エッセイを書いてきたが、その中には現在にも読まれ続けているものが多くある。このような長期にわたって読みつかがれているもののなかには、なにか今後、科学に関する文章を書く上で参考にできる部分があるではないかと考えた。そのため、今後は物理学者が執筆してきた文章を読み、分析していきたいと考えている。今のところは特に、かつて北大の先生だった、世界で初めて人工雪を作ることに成功した中谷宇吉郎を中心に研究を進めて生きたと考えている。また、中谷宇吉郎は寺田寅彦の弟子であり、大きな影響を受けているので、寺田寅彦の文章についても並行で分析していきたい。
その他の活動
科学コミュニケーション講座での研究に加えて以下のことを並行して進めていく予定だ。
- CHAINの活動に参加
- AIの勉強
- ライターの活動
CHAINの活動に参加
現在、私はCHIAN5期性として活動に参加している。CHAINとは、北大内で活動している、人間の意識やAIに関する研究を実施している機関である。このCHAINでは、さまざまな専門の先生が在籍しており、先生たちの話を聴くことは非常に刺激になる。また、CHAINに参加している学生の方々も意識の高い人が多く、自分も負けてられないという気にさせてくれる。加えて、定期的に開催されているCHAINセミナーではCHAIN外の研究者から話を聴けるので有効活用したい。
AIの勉強
AI業界は、2022年のChatGPTの登場を皮切りに生成AIブームとなっている。あまりにも技術発展のスピードが早いため完全には追いきれていないが、適宜キャッチアップしていきたい。
AIの理解は人間の意識の問題を考えるうえで有効である。脳科学での研究がAIに応用されたり、逆にAI研究でわかったことが脳科学に利用されたりするなど脳科学とAIは相互に刺激を与え合いながら成長している。私自身人間の意識に興味があるので、日々AIにも目を向けていきたい。
また、AIの勉強はAIを用いた仕事にもつながる。現在、ライターの仕事では、AI・データサイエンスに関する記事の執筆が多い。また、現在、AIを勉強するための教材を作成するインターンに参加しているが、そこでもAIの理解は不可欠である。
このように、現在の私にとって、AIは自分の興味分野でもあり、飯の種でもあるので今後も勉強を続けたい。
ライターの活動
現在、ライターとして活動しているが、大学院での活動で忙しいため、あまり時間がとれていない。あくまで、私のメインの活動は研究なのでそれが正しいのだろうが、あまりにも減りすぎると日々の生活費を十分に稼ぐことはできない。私自身、本を買ったり映画を視聴することはメンタルの安定のためにも重要なキーなので、本や映画にお金をかける余裕がないということがない程度には仕事をしていきたい。
コメント