境界画定作業(boundary work)と境界オブジェクト(boundary object)

科学技術社会論

STS(科学技術社会論)の文脈では、昔から、境界画定作業や境界オブジェクトという概念を用いて、科学とそれ以外のものとの相互作用について研究している。

「科学以外のもの」の代表的なものは、政策である。これまでも、科学技術政策を境界画定作業の概念を用いて分析するという研究が続けられてきた。ギアリンによれば、境界画定作業を「科学の慣習の特定の性質(実践者、方法、知識の蓄積、価値と研究組織)が、『科学ではないもの』とされる知的活動を区別する社会的な境界を構築するためのもの」とした。このように、科学技術政策は科学技術と政策の境界画定作業の一つの例であると認識できる。

ギアリンの境界画定作業では、科学と「科学でないもの」の対立や「科学でないもの」から科学を区別しようとするプロセスに注目していたが、境界画定作業は、科学と「科学でないもの」とが共同で構築するものに対しても適用できる。

スターらは、このような境界画定作業という概念をさらに拡張し、科学だけでなく、異なる知識背景をもつ複数の集団がいかに協力関係を構築するかを研究した。その結果、境界上に現れ、協力関係を可能にするオブジェクトである境界オブジェクトを提唱した。

異なる知識背景をもつ同士のコミュニケーションは、普段使用している語彙や思考方法の違いなどがあるためになかなか難しい。しかし、両者の間に特定のオブジェクトを設置することで、コミュニケーションが円滑に進むようになる。このオブジェクトが、境界画定作業の結果として得られる境界の安定化をもたらすオブジェクトである。例えば、科学技術基本計画などの政策文書は、研究者と政策とをつなぐための境界オブジェクトと捉えられるだろう。他にも、トップダウン型の研究プログラムや国が規定する研究ガイドラインなども、政策と科学技術をつなぐ境界オブジェクトとして、分析、理解できると考えられる。

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